(2) 釧路湿原と地域社会の課題

 釧路湿原はおよそ六千年の年月を経て形成されてきたといわれ、少しずつ自然の力で変化しています。しかし近年、周辺での人間活動の影響により、急激な変化が現われ始めています。

 現在直面している最も重要な課題は、湿原面積の急激な減少です。1950 年には約3.2 万ヘクタールあった湿原は、2010 年には約2.6 万ヘクタールにまで減少し、この60 年間で約2 割も消失しています。この多くは農地や市街地の開発によるものです。流入する河川の周囲に広がっていた湿原はほとんど開拓され、農地に変わってきました。しかし、水はけが悪いために、農地化が困難で利用できない所も見受けられます。

 また湿原の南側からは、市街地の拡大に伴って湿原を埋め立てて住宅地や道路、資材置き場等に使用する面積も増大し、景観を損なうだけではなく、キタサンショウウオの生息地を狭めるなどの影響が出ています。

 一方で湿原内に土砂が堆積し、ハンノキ林が増加するなどの質的な変化も進行しています。その背景には上流の河川や丘陵地の変化があります。流域の急速な農地化とともに、林地でも人工林に転換される場所が増え、自然林が著しく減少しました。また、森林伐採や裸地の出現、管理されていない作業道などにより、土砂の流出が激しくなりました。

 さらに上流での河川の直線化なども手伝って、湿原内には多量の土砂が流入するようになっています。これによりヨシやスゲ類の湿原内で点在していたハンノキの面積が拡大したり、湖沼で急速に土砂が堆積し水生植物や淡水魚類も減少するなど、湿原の生態系に大きな影響を与えています。同時に、近年改善されつつあるとはいえ生活排水や家畜排泄物の流入なども見られ、生態系への影響も現実のものとなっています。これらの変化は、水産業にも影響を及ぼしている可能性もあります。  自然は変化するものではありますが、この40 年間に見られるような人為的な影響による急激な変化は、野生生物のみならず人間にとっても好ましいものではありません。釧路湿原の自然環境を保全・回復させるために、早急に対策をとる必要が生じてきました。

 地域社会においても変化が見られています。流域の人口は1985 年をピークに減少を始め、30年後にはピークの半分近くまで減少すると予想されています(図1-2)。全国的な傾向と同様に、労働人口の割合も低下が続いており、流域での産業活動や生産基盤、農地のあり方も変化しつつあります。

 湿原は「豊かな自然環境」の一つとして注目が集まり、水質浄化、洪水の抑制、地球温暖化の抑制といった面で、湿原の持つ価値が評価されるようになって来ています。また、観光にも活用され交流人口の増加に貢献しており、全国随一の面積を誇る湿原と豊かな動植物の存在は、地域社会に様々な利益をもたらしています。その一方で、過剰な利用やマナーの悪い利用による環境への影響についても議論が起こっています。

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