(5)自然再生事業の課題と今後

 10 年間のさまざまな取り組みが始まった一方で、課題も明らかになってきています。個別の事業における試験的な取り組みの成果は蓄積されてきましたが、釧路湿原および流域全体にどのような効果をもたらしたかという評価、各事業の成果を他の地域へ適用して広げていく取り組みはほとんどできていないのが現状です。また、小委員会ごとの議論・事業が中心になっていることから、流域視点の原則(生態系のつながりがある流域全体を対象に考える)に則して展開していく必要があります。
 協議会の構成員数は維持されている一方で、協議会や小委員会などへの出席者は減少しており(図1-3)、各委員からも協議会のあり方や課題解決のあり方について指摘がありました。その課題の一つとして、再生の取り組みが行政機関による大掛かりな事業に限られ、地元自治体や民間団体、個人による活動が少ないことがあります。また、受動的再生の原則である、残された自然の保全への取り組みがさらに必要であることも指摘されています。協議会や委員会の運営に関しては、説明や議論をする時間が足りず、各委員の十分な理解につながっていないという意見も出ています。さらに、この湿原再生を通して湿原生態系の重要性を多くの流域市民に伝えることができていなかったという反省もあります。

図1-3. 協議会構成員数・出席者数の推移

 釧路湿原の自然再生は、過去に損なわれた自然を積極的に取り戻そうとする取り組みですが、地域社会の視点からの必要性の認識や、地域の生活や産業と関わるような取り組みはまだ芽生えてきていません。
 これらを踏まえ、今後の方針としては、釧路湿原の恩恵を「生態系サービス※4」などにより、一般の人にも分かり易い形で表現することや情報の発信や環境教育のさらなる推進などで、釧路湿原自然再生に対する市民への理解を深めていくことが求められます。また、民から官まで各層がそれぞれの立場であるいは協働して自然再生に努力できる運営を目指す必要があります。具体的には、釧路湿原全体を見通した現状の把握と評価、その中で自然再生に必要な取り組みとその優先順位を考えること、良好な自然環境の保全に関わる取り組みも重視すること、民間団体等が現に実施している活動を支援するしくみづくり、地域の産業・経済・暮らしとのかかわりをテーマとすることなどが取り組むべき課題として挙げられます。
 なお、今回の見直しでは、そのような課題に取り組むために、従来の「6.持続的な利用と環境教育の促進」の施策を、釧路湿原と地域の産業との連携のあり方や情報発信や環境教育等の啓発面を強化するために、「6.自然再生を通じた地域づくりの推進」と「7. 自然再生の普及と環境教育・市民参加の促進」の2 つの分野に分けて整理しました。これにより釧路湿原自然再生と地域社会との結びつきがこれまで以上に強くなることが期待されます。

※4 釧路湿原における「生態系サービス」については、次頁の【生態系サービス−釧路湿原が持つ価値−について】を参照のこと。

<<もどる   「はじめに」にもどる   すすむ>>



メインコンテンツ
 
環境省 釧路自然環境事務所 〒085-8639 釧路市幸町10-3 釧路地方合同庁舎4階
TEL:0154-32-7500 FAX:0154-32-7575 E-Mail:NCO-KUSHIRO@env.go.jp(@を半角に変換してお送りください)
 
 
COPYRIGHT 2005 環境省 このサイト内の文章・画像の著作権はそれぞれの作成者に帰属します。無断利用を禁じます。