自然再生事業について: 世界の自然再生[ドイツ 2]  
ドイツの事例 ウンターゼー・ライフ・プロジェクト

権利と人間の権利の譲り合い

ボーデン湖はドイツ南部、スイスとの国境に位置する湖で、湖岸はバーゲン・ヴュルテンベルク州に属しています。
ボーデン湖の西端に位置するウンターゼー水域は6,300haでボーデン湖の13%に過ぎませんが、ボーデン湖域の中でも浅瀬が多く、大部分が自然の景観を維持しています。希少動植物種も多く、EUの保護区「ナチューラ2000」にも組み込まれています。その湖岸や流れ込む川の河口部など1,000haで「ウンターゼー・ライフ・プロジェクト」と呼ばれる自然再生事業が行なわれています(99年〜03年)。EU、NGO(ドイツ自然保護連合NABU)、フライブルク県自然景観保護局の協働体制によるものだが、再生の手段として、立ち入り禁止区域の設定や土地買収を行なった上で、岸壁の除去などの事業を実施しており、事業費総額の12%が土地買収費に充てられています。
対象地域は8地域に分かれ、それぞれの条件に応じて野生生物生息地の質を高めるため、広範囲で農地の買収、交換、長期借上げなどが行なわれるとともに、集約的な利用がなされていた耕地や牧草地を、多様な生物の棲む湿原・草原、河畔林へと取り戻す取り組みが進められています。主要な事業は以下のとおりです。


河畔林の復元・保全

定期的な洪水に適応してゆたかな野 生生物の生息空間を作っていたア一八川沿いの雑木林・河畔林を復元、11haの耕作地を買上げてうち3haで自然の遷移に任せた成長を見守っています。

湖岸の再自然化

自然の湖岸200箇所の底質、生物相などを詳細調査した上で、対象地区(計400m)のコンクリート護岸を除去し、再自然化のため、沖合いへの浸食防止用の石の投入、砂利・土砂敷き詰め、湖岸の土盛り、植林などを実施。


旧河道の復元

直線化が進んだラドルフツェラー・アーハ川下流部で、切り離された旧河道に再び本川の流れを結合し、水が流れるようにしています。土質が柔らかく機械的な工事が難しいため、ヨシなどの植物を使った堰を利用する予定。


自然志向の土地管理

自然の河畔林と粗放的農地により多様な生物生息空間を創出し、地力維持のための農地利用から生まれる草原には、洪水時の氾濫原としての機能を果たさせます。そうした状態をめざし、100年間の農業形態の変化で侵入した低木の伐採や家畜による管理を現在進めています。


川岸の草原の保全

川岸の再自然化で戻ってきた希少な草花の環境を守るため、植栽や一部立ち入り禁止区域を設定。


駐車場の移動

遊泳場の駐車場を、自然保 護地区の動植物生息圏から隔離。


ガイドツアー等の実施


ボーデン湖に注ぐラドルフツェラー・アーハ川は、水系面積261m²のなかに広範囲に地下水の流出場所があり、その影響から頻繁に起こる氾濫が、独特の変化に富んだ河川・ヨシ原の景観を作り出しています。このため流域に4箇所の保護区も設定されていますが、19世紀後半から、排水効率の改善、洪水防止を目的として、河川の大半が直線化されました。再蛇行化事業は、1988年の大洪水をきっかけに、91年、地元NGOドイツ環境自然保護連盟(BUND)が地元自治体とともに取り組みを開始したものです。この事業で人間が行なったのは、コンクリート護岸や川底のコンクリート床などの撤去と氾濫時に濁流を受け止める原野の確保のみである。自由に流れる「川の権利」を認めることが掲げられ、人間の権利との譲り合いがテーマとなりました。
事業を進めるに当たっては、あらゆる関係者によるワーキンググループと、テーマ別の専門ワーキンググループが設置され、多様な広報活動も展開されて、早い段階からプロジェクトは地域に定着しました。こうして自治体や自然保護団体だけでなく、一般の市民が再自然化の原動力となり、土地所有者や治水当局などとの対話を進めていきました。
現在も、川と人との距離を縮め、住民が川への愛着をより深めていくことを促す試みとしての環境教育が重視され、「地域住民に継続的に情報を発信し続け、知識を与え、事業を冷静に評価する目を育てる」ことにカが注がれています。

[公式サイト] UNTERSEE LIFE

 

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