自然再生事業について: 世界の自然再生[ドイツ 1]  
ドイツの事例 ディープホルツ低湿地帯BUNDプロジェクト
水文環境管理を中心とした湿原再生

ドイツ北西部ニーダーザクセン州にあるディープホルツ低湿地帯において、泥炭採掘等で消失した湿原を復元し、昔ながらの湿原風景と湿原生態系を取り戻し、保全することを目的とした、ドイツ環境自然保護連盟(BUND)のプロジェクト。高層湿原や低層湿原、中間湿原、砂地、内陸の砂丘などの隣接するビオトープ(=生物生息空間)を守り、絶滅の危険にある動植物のために、本来の自然に近い生息環境をつくりだすことを目的として活動しています。


再生対象となっている湿地の事例


ノイシュタット湿地 ゲースト湿地
所在地 ニーダーザクセン州ディープホルツ郡
自然保護区面積 ラムサール条約登録湿地
EU鳥類保護区「ナチューラ2000」
ラムサール条約登録湿地
湿地の状況 1950〜60年代まで泥炭採掘、中心部まで道路が設置され、道の両側には排水溝がある。跡地は放置されていたが、30年前から水位上昇・安定化を中心とする自然保護活動を展開、一部はミズゴケも再生。 1998年まで35年間泥炭採掘。採掘深さは60cm、一部は160cmに及ぶ。終了後、3年間にわたりダム設置等による水位回復等の再生事業を実施中だが、道路側溝が排水溝として機能していることが問題。
保全のための土地購入 ドイツ連邦政府からの補助金により、ディープホルツ郡が2,200ha購入(1979〜1992年)。876haは郡単独で購入(高層湿原のほか草原、森林を含む)。ほかにWWF(35ha)、BUND(22ha)が購入。 ディープホルツ郡(338ha)、州(56ha)、財団法人(458ha)による購入。

活動組織
ドイツ環境自然保護連盟(BUND )

ドイツ環境自然保護連盟(BUND)はドイツ最大の自然保護団体で、40万人の会員を有し、ドイツ全土にある支部を拠点に自然エネルギー利用、公共交通利用、有機無農薬の作物づくり等を推進するための教育活動やキャンペーン活動を行っています。 BUND支部は、ディープホルツ低湿地帯がある州や郡と、自然保護区の管理契約を結び、湿原再生のための植生管理、動植物のモニタリング調査や具体的な保護対策の提案、普及啓発活動等を受託事業として行っています。保護すべき湿原は州をまたがり、ニーダーザクセン州とその南西部に隣接するノルトライン・ヴェストファーレン州に及んでいるが、両州と管理契約を結んでいるため、BUND支部による保護活動は行政区画の制約を受けることなく行なわれています。


湿原の植生管理
1.水文環境の修復

湿原のまわりにある浸水箇所(Lechs;水が流出する穴)を塞ぐために、湿原内でのダム造成や、急勾配の稜線を平らにして水の流出を防ぐ事業等を実施しています。例えば、ノイシュタット湿地におけるダムは、1997〜1998年に造られたもので、現場の泥炭を利用して主要部分は重機を使い、一部は人力による排水溝の埋め戻しも行なわれました。当初は植生への影響を考慮して、重機を入れない方針としていましたが、作業効率の面から重機を活用するようになりました。現在も湿原表面の植生を重機(地面に与える圧力を減少させるために、タイヤを追加し、草刈機が取り付けられた改造トラクター)で刈り取り、排水溝全体を埋める作業が行なわれています。


2.進入樹木の成長抑制・伐採作業

排水により水位が低下し乾燥化した高層湿原には、マツ・シラカバ等の木本植物が生育を始め、光・水分条件の悪化により湿原植生は阻害を受けるほか、シラカバは蒸散量が大きく湿原の水位低下をもたらすためこうした樹木の除去も必要な作業となります。手作業や、機械を入れての植生管理は多額の費用が必要となるため、水位の上昇が難しい限られた地域でのみ、冬期間の樹木の刈り払い、焼き払いがボランティアより行われています。
水位を上昇させることが難しい場所では、新しく生育する木本の生育を阻害するとともに、植生の管理を行なう目的から、羊の放牧を行っています。


モニタリング調査・保全対策の提案

UND支部は、湿原の保全対策についてのモニタリング調査を行い、具体的な保全対策を州や郡などの行政へ提案しています。また、ビオトープのデータ(主に動物相や植物相)を収集し、データベース作成、管理を行なっており、地理情報システム(GIS)を利用した湿原現況の図化も行なわれています。
羊の放牧に関してのモニタリング調査も実施しており、放牧の影響がない100箇所の対照地倣牧区内に設置された柵で囲んだサイト)が設置され、土地条件や経時変化による放牧による植生管理の効果等について、定期的に科学的なデータが収集されています。


普及啓発活動

BUND支部は、湿原再生の必要性の理解を多くの人々から得ることを普及啓発活動の目的とし、事業実施の経緯や理由・必然性等といった根本的な部分を、何度も繰り返して人々に伝え、どのように目的を達成しようとしているかを人々に紹介することに重点を置いた活動が行なわれています。


他団体や組織等の連携

自然保護・景観保全財団、州、郡は、一部EUや連邦政府環境省の補助金を活用して、4000ha以上の湿原、耕作地を購入し、ディープホルツ低湿地帯の湿原保全の基盤をつくってきました。BUND支部では、上記組織のほか、自然保護機関、農業機関、都市や地方自治体、農業、景観保護のための放牧農家・団体等、湿原に関わる様々な団体・個人と連携し、協力を得ながら湿原の再生・保全活動を展開しています。
また、道路や農地造成時における排水等の農地整備事業において、BUND支部は現場の作業監督を受託しています。現場の水文条件などを把握しているBUND支部が関わることで、農地整備事業による湿原への影響(水位の低下、湿原環境の攪乱等)を低減させることに成功しています。



[公式サイト] BUND-Projekt Diepholzer Mooniederung


 

前の記事:世界の自然再生[デンマーク] | メニューに戻る | 次の記事:世界の自然再生[ドイツ 2]

メインコンテンツ
 
環境省 釧路自然環境事務所 〒085-8639 釧路市幸町10-3 釧路地方合同庁舎4階
TEL:0154-32-7500 FAX:0154-32-7575 E-Mail:NCO-KUSHIRO@env.go.jp(@を半角に変換してお送りください)
 
 
COPYRIGHT 2005 環境省 このサイト内の文章・画像の著作権はそれぞれの作成者に帰属します。無断利用を禁じます。