アメリカの事例 エバーグレイズ総合再生計画 キシミ−川自然再生から「エバーグレイズ総合再生計画」へ アメリカ・フロリダ州のエバーグレイズ湿原に注ぐキシミー川の蛇行化、湿原の再生は世界的にも有名な自然再生の事例です。 1950年代に地域開発が始まり、湿原にはりめぐらされた排水路が都市開発や農業開発に必要な土地を提供しましたが、さらに造成された土地を、頻発するハリケーンによる洪水から守るため、キシミー川改修工事が実施され、166kmにわたって蛇行していた流路は直線化、90kmまでに短縮されました。この結果、季節的に冠水していたキシミー川氾濫原は水位が低下し、下流の湖や湿原は乾燥化が進行、また農業排水に含まれる栄養塩により、湿原植生が変化したのをはじめ、流域の生態系の多様性が大きく損なわれました。
市民団体などの働きかけを受けて州政府は1983年、「エバーグレイズ湿原救出計画」を開始、連邦政府とも協力してキシミー川流域の水文システムと生態系の復元をめざしました。キシミー川の生態復元のプロジェクト立案が始まったのは90年、以前の河道掘削の際に掘り出した土砂を再び、中流部の35kmの区間にわたって埋め戻す方法で、97年から施工を開始、終了は2010年を予定しており、104km2の川一氾濫原の湿地生態系が再生されることになります。その結果、絶滅危惧種のアメリカトキコウ、バクトウワシ、カタツムリトビなどを含む約320種の魚類・野生動物のハビタットの復元が期待されています。
直線化された運河沿いのほとんどの土地所有者は、氾濫原が排水・干拓されたあとに新しく作り出された牧草地で牛を飼う牧場主でした。事業主体である南フロリダ水管理公社は、直線河道の埋め戻しと並行して、氾濫原を確保するためかつての氾濫原の境界を示す樹林帯間の土地を買収しました(約2,800ha)。住民は氾濫域外へと移動し、これによって生命・財産を失うことなく(事業実施前と同じ治水レベルで)自然の洪水サイクルが復元されることになりました。
キシミー川は大工バーグレイズ水系に含まれている。かつてはキシミー湖〜オケチョビー湖〜エバーグレイズ湿原にわたる北から南へのゆるやかな水流があったが、現在では直線化された河川や排水システムによって、表流水は速やかにフロリダ東海岸へ流出することになり、大エバーグレイズ水系を特徴づけていた湿原の大部分が失われました。この失われた水文条件を回復し、過去に成立していた湿地生態系を再生するため、2000年水資源開発法により「エバーグレイズ総合再生計画」が承認されました。計画対象範囲は18,000平方マイル、16郡にまたがり、1000マイルの水路や720マイルの堤防、数百の水制が含まれます。これによって、自然再生のために水資源を利用することを可能にする措置がとられ、キシミー川の再蛇行化、表流水の地下滞水層への涵養などを実施することになりました。この計画はこうした土木事業に加えて、データベース整備、環境教育などソフト面の支援事業も組み合わせた60以上の事業が組まれ、30年以上の実施期間を見込むという、幅広く総合的なものとなっています。
(資料=「自然再生事業一生物多様性の回復をめざして」鷲谷いずみ+草刈秀紀編「川の自然再生事例集」2003年3月監修/「川の自然再生シンポジウム」実行委員会・作成/国土交通省河川局河川環境課・編集/財団法人日本生態系協会) |
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