7 自然再生の普及と環境教育・市民参加の促進
この施策では、釧路湿原で行われる自然再生について広く流域の人々や利害関係者に伝え、その必要性や方向性、実施状況等についての理解や共感を広げていきます。また、湿原に関する環境教育を推進し、流域の多くの人々が湿原に関心を持ち、湿原のワイズユース(賢明な利用)に向けて行動する状況の実現を目指します。さらに、地域や市民の自然再生への直接間接の参加を支援し、地域と自然再生をつないでいきます。
(1) 現況と課題
釧路湿原周辺では、自然体験活動や環境教育、環境保全活動が活発に実施されています。こうした活動の支援や拡大に向けて協議会が進めてきた「釧路湿原自然再生普及行動計画」(ワンダグリンダ・プロジェクト)でも、魅力的な活動が多種多様に展開されており、湿原を楽しむ手法、湿原体験や保全活動への参加機会は、この10年で着実に拡充しました(図5-17)。地域のNPO や企業による取り組みも地道に継続されており、産学民官のゆるやかなネットワークもできてきています。
これらに加えて、協議会では自然再生の現地見学や参加機会づくり等を進め、参加者からは一定の評価を得てきました。また、流域の学校教育での湿原の活用に向けて、教材の作成・提供や湿原での教員研修等を実施し、学校を支援してきました(図5-18)。
しかし、流域全体では湿原や自然再生に対する関心は必ずしも高まっておらず、以下のような課題が指摘されています。
- ・湿原の経済・社会的価値が流域の人々に具体的なイメージとして伝わっておらず、自然再生の意義が必ずしも十分に共有されていません。
- ・自然再生の具体的な実施状況や成果が地域に十分に知られていません。
- ・協議会の各種会議やWEB サイトによる情報提供は専門用語が多く、一般市民には難解な内容となりがちです。協議会の各種会議も専門家による討議が中心となっています。
- ・市民が自然再生に参加する機会は以前よりも増えましたが、まだ限定的で参加者の広がりも十分ではありません。また、自然再生につながる取り組みであっても、そのことが意識されていないこともあります。地域や市民が参加する意義、参加の方法や機会を多くの人々に広める必要があります。
- ・学校教育での湿原の活用には多くの課題があり、学校での取り組み事例は限られています。
自然再生は地域の意思と長い時間を必要とします。そのため、流域の多くの人々が湿原をめぐる状況を理解し、将来を担うこどもたちが積極的に参加、行動していく状況を創りだしていくために、産学民官が連携、協働し、継続的に改善に取り組んで行くことが求められています。
(2) 本施策において達成すべき目標、目指す状態(成果目標)
以下の3つの目標ごとに具体的な施策を展開します。
- ① 釧路湿原の経済・社会的な価値が流域の多様な立場の人々に普及し、地域の資産を維持する手段としての自然再生に共感が得られ、その実施状況に多くの人が関心を持ち、知られている状況を目指します。
- ② 湿原に関する環境教育や自然再生への市民の参加のあり方について、協議会と地域でその目標が共有され、対象に応じた効果的な支援や参加機会の拡充等により、湿原に関心を持つ人、学ぶ人、参加、行動する人が現在よりも増えている状況を目指します。
- ③ 湿原周辺の学校において教職員が湿原に関心を持ち、地域の人材との連携の下に湿原を活用した地域学習や教科学習が継続的に実践されている状況を目指します。
(3) 実施すべき手法・内容(行為目標)
- ① 効果的な情報発信と関心の拡大
- ・釧路湿原の価値や現状、自然再生の必要性や実施状況等について、市民向けにわかりやすく発信する
- ・自然再生に関する情報を迅速に公開するとともに、対話や現場の理解等を地道に重ねていく
- ② 学校・地域での環境教育の推進
- ・学校教育及び社会教育における湿原の活用を支援する
- ・自然再生の環境教育への活用を進め、指導者を支援する
- ・湿原を活用した環境教育に関する流域の関係機関、施設等の連携を進める
- ③ 自然再生への市民参加の促進
- ・実施計画ごとに地域や市民の参加のあり方を検討し、定着させていく
- ・自然再生や湿原を活かした地域づくりに貢献するすぐれた取り組みを周知していく
- ・ 寄付等による自然再生への間接的な支援を広げていく
- ・協議会での意見交換を活性化していく
- ・これらの活動を推進するための行動計画を作成し、推進していく
(4) 成果の評価項目評価手法の例
- ① 効果的な情報発信と関心の拡大
- ・HP 更新、メールニュース配信、報道発表等による情報発信数
- ・HP アクセス数、報道掲載数
- ・広報活動や交流行事、対話等の実施回数、参加者数
- ・「ワンダグリンダプロジェクト」参加数
- ・情報発信、対話による波及事項
- ② 学校・地域での環境教育の推進
- ・学校支援の実施状況
- ・学校での実践状況(アンケート調査)
- ・環境教育支援活動の波及事項
- ③ 自然再生への市民参加の促進
- ・自然再生への参加機会の実施数、参加者数、及び参加者の評価(アンケート等)
- ・寄付金の収入及び活用状況、具体的な成果等
- ・ワンダグリンダプロジェクト参加活動の分析
- ・自然再生への参加機運に関する具体的な動き
- ・参加促進による波及事項
- ・行動計画の策定及び進行管理の状況