現状と課題
釧路湿原は、我が国を代表する傑出した自然環境の一つで、野生生物の重要な生育・生息の場となっている。また、人間にとっても水がめとしての保水・浄化機能、遊水地としての洪水調節機能、地域気候を緩和する機能など重要な価値や機能を有しており、将来にわたって保全すべき貴重な財産である。
近年、流域の経済活動の拡大に伴い湿原面積が著しく減少し、湿原植生もヨシ-スゲ群落からハンノキ林に急激に変化してきている。自然は推移するものであり、湿原が長期的には陸化するのは避けられないが、近年みられるような変化は、野生生物のみならず人間にとっても好ましいものではない。よって、湿原の保全・回復のため、実践的な各種調査・試験を行い、早急に対策に取り組む必要がある。
また、釧路湿原は、釧路川流域の河川環境の一部であり、流域住民、市民団体、民間企業、関係行政機関すべてが多様な形で釧路湿原とかかわっている。しかし、そのような認識を基本とした交流・連携の事例は極めて少ないのが現状における課題といえよう。 |
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目標
釧路湿原の河川環境保全の長期的な目標として、ラムサール条約登録(1980)当時の環境へ回復することが望ましい。そのためには、流域及び河川からの負荷を土地利用が急速に展開した以前の水準に戻す必要があると考えられる。
ただし、釧路湿原のハンノキ林面積や湿原面積などを指標とした環境については、現在も急速に変化し続けていることから、当面、20〜30年以内に達成する目標として、西暦2000年現在の状況を維持・保全すべきである。この目標を達成するには、流域及び河川からの負荷を少なくとも概ね20年前の水準に戻すことが必要である。
流域住民、市民団体、民間企業、関係行政機関すべてが、釧路湿原を軸としてつながっているという認識のもと、交流・連携を深められる地域・社会づくりが重要と思われる。そのためには、釧路湿原の適切な保全と利用のルールやマナーの共通認識をもつことが当面の目標となろう。 |
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目標達成のための施策(12の提言)
1.水辺林、土砂調整地による土砂流入の防止
2.野生生物の生息・生育環境の保全
3.植林などによる保水、土砂流入防止機能の向上
4.湿原景観の保全
5.湿原の再生
6.湿原の調査と管理に関する市民参加
7.湿原植生の制御
8.保全と利用の共通認識
9.蛇行する河川への復元
10.環境教育の推進
11.水環境の保全
12.地域連携・地域振興の推進 |
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施策の有効性の検証
ここにまとめられた施策は、現時点における知見をもとに緊急的に提言したものであり、不確定な要素も含まれるものである。よって試行の結果をもとに効果を判断したうえで本格的に実施することが必要である。
本委員会は目標に対するこれら対策の有効性について、継続的に責任を持って評価を行うとともに、必要に応じて施策を見直す。 |
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施策の実施にあたって
これらの施策は、湿原保全のために従来から重要と考えられてきたものであるが、既存の組織、枠組みでは実施が困難であったものが多く含まれている。施策の実施にあたっては、流域住民の充分な理解と協力を得るとともに、各関係機関の強力な連携・推進体制の早急な整備が必要である。
本委員会は、施策の実施を通じて釧路湿原流域の住民、行政の連携システムが構築されることを期待するものである。 |
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